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東京地方裁判所 昭和48年(借チ)1048号 決定

申立人

椿一義

右代理人

赤坂正男

相手方

大熊譲

右代理人

小坂嘉幸

主文

申立人が相手方に対し本裁判確定の日から三月以内に金八八万七、六〇〇円を支払うことを条件として次のとおり定める。

1  申立人が別紙目録(二)記載の建物について同目録(三)記載の内容の増改築をすることを許可する。

2  申立人と相手方との間の別紙目録(一)記載の土地に対する賃貸借契約の賃料を本裁判確定の月の翌月から一カ月金一万〇、六五〇円に改定する。

理由

(申立の要旨)

一、申立人は、相手方から別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)を賃借し、同地上に同目録(二)記載の建物(以下本件建物という。)を所有している。

二、申立人は、本件建物において染物業を営んでいるが、最近家族が増加し、本件建物が狭隘化してきたので、これを別紙目録(三)記載の内容で増改築することを計画しているが、相手方との間で右増改築につき協議が調わない。

三、よつて、右改築について相手方の承諾に代わる許可の裁判を求める。

(当裁判所の判断)

一本件資料によれば、申立の要旨一、二記載の事実が認められる。

二(一)  相手方は、「本件増改築により本件土地の北西側に居住する相手方所有建物の日照、通風、採光が著しく阻害されることになるから、このような増改築には応じられない。増改築するのであれば、相手方の日照を確保するため、本件土地の東南側になすべきである。」旨主張する。

(二)  しかしながら、鑑定人中田久の鑑定の結果によると(なお、右鑑定中、増改築前の本件建物による日照阻害を表わした部分は、資料が充分でなかつたため、かならずしも正確ではないようであるが、以下の認定には影響がない。)、本件増改築後の建物による相手方所有建物の日照阻害の程度は、冬至の時点で、一階東南面においてはかなり大きいが、南西面ではさほど大きいとはいえず、また二階にはほとんど影響を及ぼさないこと、右阻害の程度は、相手方が希望する設計変更による建物によつても格別大きな差異がないことが認められる。

右事実のほか、本件増改築は二階建であるところ、相手方自身も二階建建物を所有していること、申立人(妻)は、染物業を営んでおり、そのため営業上奥行九間ないし一〇間の物干場を必要とするところ、相手方が希望する設計変更をすると右物干場を設置する余地がなくなつてしまうこと、申立人も本手続の中で可能なかぎりの設計変更をしており、特に相手方に対する害意があるわけでもないことなどの諸事情に鑑みると、本件土地の地域性、相手方の蒙むる日照阻害等の被害の程度を考慮しても、なお、本件増改築が許されるべきでないとはいい難い。

(三)  その他本件にあらわれた一切の事情を考慮し、本件増改築は土地の通常の利用上相当であると認められる。

よつて本件申立を認容することとする。

三鑑定委員会は、本件増改築により相手方の日照の利益が阻害され、また申立人は本件土地を最有効に利用できることになるから、その利益の調整を図るため、申立人に対し財産上の給付を命ずべく、その額は、本件土地の更地価格を一平方メートル当り二〇万円、借地権価格をその七〇パーセントとそれぞれ評価したうえ、本件土地の借地権価格のほぼ二パーセントに該当する四九万七、〇〇〇円が相当である旨の意見書を提出した。

四当裁判所も、本件増改築による当事者間の利益の衡平を図るため申立人に財産上の給付を命ずるのが相当であると考えるが、鑑定意見書の右算定額は、当裁判所の従前の例に比しやや低すぎると思われる。当裁判所においては、従前より増改築の許可の裁判に伴う財産上の給付額を、通常の土地利用形態での全面改築の場合には更地価格の三パーセント、一部増改築の場合には、その程度に応じて減額して算定することとしている。そこで、本件においてもこれに従うものとするが、本件増改築は、一部増改築ではあるが、これにより相手方の日照の利益が害されることおよび従前の本件賃貸借の経緯に鑑み、結局、本件土地の更地価格三、五五〇万四、〇〇〇円(本件土地面積177.52平方メートルに鑑定意見書による一平方メートル当り二〇万円を乗じたもの)の2.5パーセントに当る八八万七、六〇〇円をもつて本件財産上の給付額とするのが相当である。

また 賃料については、鑑定委員会の意見にしたがい、本裁判確定の月の翌月から一カ月一万〇、六五〇円に改定することとする。

五よつて、申立人が相手方に対し本裁判確定の日から三月以内に八八万七、六〇〇円を支払うことを条件として、主文1、2のとおり決定する。

(前島勝三)

〈目録省略〉

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